“転売ヤー”対策 外国人向け消費税免税制度を改正し、税制悪用を是正検討 何が有害か徹底解説

日本を訪れる外国人観光客の増加に伴い、インバウンド需要は急速に拡大しています。観光業の発展は経済に多大な貢献をしていますが、その一方で消費税の免税制度が悪用されるケースも増加しています。

これにより、日本政府の税収が減少する問題が深刻化しています。

元国税調査官で税理士の笹敬吾氏の解説をもとに、免税制度の現状とその悪用手口について詳しく探ります。

また、ジャーナリスト立岩陽一郎氏の視点から、問題の本質が店舗側の善悪ではなく制度そのものにあるとの指摘についても考察します。

免税制度の基礎知識

免税制度とは

消費税は国内での消費に対して課税されるものであり、海外で消費される場合には免税となります。

この制度は、外国人観光客が日本で購入した商品を自国に持ち帰り、国内で消費しないことを前提としています。

具体的には、購入時にパスポートを提示し、消費税抜きの価格で商品を購入するか、免税カウンターで後日消費税分の返金を受ける流れとなっています。

免税の条件

免税を受けるためには、以下の2つの条件を満たす必要があります:

  1. 非居住者であること:日本に6ヶ月以上居住していない外国人観光客が対象となります。パスポートの提示により確認されます。
  2. 購入金額の制限:一般物品や家電製品の場合、1店舗あたり1日5,000円以上の購入が必要です。消耗品や化粧品などの場合は、5,000円以上50万円以下の範囲で免税が適用されます。

これらの条件により、観光客が適正に免税を利用することが期待されています。しかし、実際にはこれらの条件を悪用するケースが増えており、税収の減少につながっています。

免税制度の悪用とその影響

免税品の転売手口

元国税調査官の笹敬吾氏によると、免税制度の悪用は主に以下のような手口で行われています:

  1. 偽装取引:観光客を装い、実際には日本居住者が免税対象として商品を購入します。これにより、消費税を回避し、商品を安価に入手することが可能になります。
  2. 大量購入と転売:一人が複数の店舗で免税対象として商品を大量に購入し、それを国内外で転売することで利益を得ます。特に人気商品や家電製品が狙われやすいです。
  3. 虚偽申告:購入時に実際には購入していない商品を購入済みと偽り、後日返金を受け取ります。この手口により、実際の消費税を支払わずに済ませます。

これらの悪用により、消費税の本来の収入が減少し、政府の税収に大きな影響を与えています。特に消費税率が10%となった現在、その影響はさらに顕著です。

税収への影響

2022年度のデータによれば、日本国内で免税で購入された金額は約6,000億円に達しています。

仮に消費税率を10%とすると、約600億円の消費税が免税となり、本来なら国に納められるべき税収が失われています。

さらに、実際に摘発された脱税額は563万円に留まっており、全体の免税額に対しては微々たるものです。

このギャップは、免税制度の悪用がいかに広範囲に及んでいるかを示しています。

過去の摘発事例

百貨店での転売事例

過去には、大手百貨店やドラッグストアが免税品の転売を目的に利用されるケースが摘発されています。

例えば、近鉄百貨店や阪急阪神百貨店などでは、1億円以上の脱税が確認され、厳しい課税処分を受けました。

これらの事例は、免税制度の悪用が一部の大手店舗でも行われていたことを示しています。

脱税の手口とその検証

摘発されたケースでは、取引書類の偽造や虚偽申告が主な手口とされています。

例えば、購入した商品数を実際より多く申告することで、消費税の返金額を不正に増やす方法などが挙げられます。

これに対し、国税当局は電子税関システムを導入し、買い物時点と出国時点でのデータ照合を強化しています。

しかし、実際には全ての取引を網羅的にチェックすることは難しく、抜き打ち調査に頼る部分が大きいため、完全な防止策とはなりにくい現状です。

制度の問題点と改善提案

善悪の問題ではなく制度の問題

ジャーナリストの立岩陽一郎氏は、免税制度の悪用を店舗側の善悪で判断するのではなく、制度自体の見直しが必要だと指摘しています。

免税制度が持つ根本的な問題点を明らかにし、システムを改善することで、悪用を防止しつつインバウンド需要を維持することが求められています。

制度の複雑さや管理の不備が悪用の温床となっているため、これらを解消するための具体的な施策が必要です。

リファンド方式の導入検討

政府は、免税制度の見直しとして、海外で一般的なリファンド方式の導入を検討しています。

この方式では、購入時に消費税を一旦支払い、出国時に消費税分をまとめて払い戻す形となります。

これにより、消費税の適正な回収が可能となり、悪用のリスクを低減することが期待されています。

リファンド方式は、消費者にとっても透明性が高く、信頼性の向上につながると考えられています。

経済的側面と管理強化のバランス

リファンド方式の導入には、経済的な側面と管理強化のバランスが重要です。

消費者の利便性を損なわずに税収を確保するためには、システムの効率化と透明性の向上が不可欠です。

また、実施に伴うコストや運用方法についても慎重な検討が必要とされています。

過度な管理強化は消費者の負担を増やし、インバウンド需要の減少につながる可能性があるため、バランスの取れた政策設計が求められます。

現行のチェック体制とその限界

電子税関システムの導入

現在、免税品の購入時には電子税関システムが導入されており、購入データが国税局と税関に送信されます。

このシステムにより、購入者のパスポート情報と紐付けられたデータが管理され、出国時に実際に商品が開封されているかどうかが確認されます。

電子税関システムは、データの一元管理と迅速な照合を可能にし、不正行為の検出を支援しています。

抜き打ち調査の実施

出国時には、過去の購入データに基づいて抜き打ち調査が行われます。

これにより、怪しい取引や大量購入が確認された場合に、不正行為が摘発される可能性があります。

しかし、全ての取引を網羅的にチェックすることは難しく、抜き打ち調査に頼る部分が大きいため、完全な防止策とはなりにくい現状です。

また、限られたリソースでの調査では、すべての不正行為を見逃さずに検出することは困難です。

転売の実態とその多様性

国内外での転売手法

免税品の転売は、国内外でさまざまな手法が取られています。

国内では、免税制度を悪用して大量に商品を購入し、それを国内市場で転売することで利益を得るケースが多く見られます。

一方、国外での転売も行われており、特に中国などの近隣国では、日本製品の人気が高いため、転売業者が多く存在します。

これらの転売手法は、偽装取引や虚偽申告を駆使することで、消費税を回避し、利益を上げることを目的としています。

転売の影響と対策

転売行為は、正規の消費税収入の減少だけでなく、正規の販売店にも悪影響を及ぼします。

正規の顧客が免税制度を利用して商品を購入し、それが転売されることで、市場の価格が不安定になり、消費者の信頼が損なわれる可能性があります。

これに対して、政府や国税当局は、電子税関システムの強化や抜き打ち調査の徹底などの対策を講じていますが、完全な防止には至っていません。

新しい対策と今後の展望

政府の新政策とその効果

政府は、免税制度の悪用を防ぐために新たな政策を検討しています。

特に、リファンド方式の導入は、消費税の適正な回収を目指すものであり、不正行為のリスクを低減することが期待されています。

また、電子税関システムのさらなる強化や、AIを活用したデータ分析による不正検出の精度向上も進められています。

これらの政策が実施されることで、免税制度の透明性が高まり、悪用の防止につながることが期待されます。

インバウンド需要の維持と税収の確保

インバウンド需要を維持しつつ、税収を確保するためには、バランスの取れた政策が必要です。

消費者の利便性を損なわずに税収を確保するためには、システムの効率化と透明性の向上が不可欠です。

また、免税制度の利用状況を継続的にモニタリングし、必要に応じて制度を柔軟に見直すことが重要です。

これにより、インバウンド需要の持続的な拡大と税収の安定的な確保を両立させることが可能となります。

結論

免税制度の悪用は、日本の税収に重大な影響を与える問題です。

元国税調査官の笹敬吾氏やジャーナリストの立岩陽一郎氏の指摘を通じて、問題の本質が制度そのものにあることが明らかになりました。

今後は、制度の見直しと新たな対策の導入により、悪用を防止しつつ、インバウンド需要を維持することが求められます。

政府や国税当局は、電子税関システムの強化やリファンド方式の導入など、具体的な施策を講じることで、持続可能な経済成長と税収の確保を目指す必要があります。